故郷への想い

甑島に生きる人びとは、古くから半農半漁の生活を営んできたー

島のあちこちに散りばめられた美しい自然と、集落のなかにひっそりとたたずむ素朴な暮らし。そして、この地に力強く生きる島びとたち。

この島では、集落の家々が寄り添っているように、人々も寄り添い合い、支え合い、励まし合いながら生きてきた。

その何でもない風景が、この島の日常そのものであり、特別な毎日であることを知ったとき、この地に生まれたことがたまらなく幸せなことだと、私には思えたのだった。

月明かりの下、煌煌と光る漁船の群れが沖へとでていく。

船のエンジン音と無線機から聞こえてくる漁師たちの会話が、やわらかな夜風にのって私の部屋へと届く。島の無邪気なこどもたちが静かな眠りにつく頃、それはまるでいつもの子守唄みたいに―

玉石の続く海岸線に、今朝とれたばかりの新鮮な魚が、女たちの手によって一枚一枚丁寧に干されていく。島の猫たちが、どこからともなく集まっている。アコウ木の下では、しわの深い老人が黙々と破れた網を繕っている。そのどれもが、言葉にできないほど美しく、輝きに満ちていたものだった。

この島に、特別なことはなにもない。

ただ、私たちは甑島の地に想いを持って生きている。一人ひとりの想いと行為の連続が、この島の今日を、今日の美しい風景をつくりだしているのだ。

島の日常を支えることは、豊かなふるさとの暮らしをつくること。それは、未来をつくること。豊かな営みを永々と続けていくことは、甑島の確かな魅力に繋がっている。人間の豊かさとはなにか、生きるとはなにか、そして、故郷とはなにか。甑島の海と断崖は、その厳しさを私たちに教え、人々は生きる強さと優しさを与えてくれる。そんな故郷の姿を、この先もずっと見ていたいと思うのだ。


米づくり日記

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